【行動を変えるのは「心」か「仕組み」か?】
――コーチングと構造アプローチのちがい
「この人がもっと前向きになってくれたら…」
「やる気を引き出せば、きっと変われるのに」
リーダーとして誰かを育てたいとき、そんなふうに考えたことはありませんか?
この考え方は、「コーチング」というアプローチによく見られます。コーチングは、人の“内面の変化”に注目します。たとえば、「どうなりたいのか」「何を大切にしたいのか」といった問いを通して、本人の気づきや成長をうながし、そこから行動を変えていこうとします。
たしかに、内面からの変化は力強いものです。自分の中から出てきた気づきや想いは、本物ですし、長く続く可能性もあります。
でも現実には、「気づいたのに行動が続かない」「意識は変わったはずなのに、職場では元に戻ってしまう」――そんなことも多いものです。
ここで視点を変えてみましょう。
もうひとつの考え方は、「構造アプローチ」です。
これは、「心が変われば行動が変わる」というよりも、「構造が変われば、行動が自然に変わる」という立場に立っています。
たとえば、
- 時間になったら自動的に始まるミーティング
- 目標が壁に貼ってあり、毎朝全員で確認する
- 成果を出したら小さな賞を贈る制度がある
こうした仕組みや環境――つまり“構造”が、人の行動を後押しします。本人が「やる気」かどうかに関係なく、動いてしまう仕掛けがあるのです。
この視点では、行動は「意志の力」で頑張って生み出すものではなく、構造に引っ張られて生まれるものととらえます。
たとえば、毎朝6時にランニングを始めたいなら、「やる気」を高めるより、友だちと約束をしておくとか、ウェアを前の晩に用意しておく方が、ずっと効果的です。
コーチングは「内面の火を灯す」方法。
構造アプローチは「風が吹けば動く風車をつくる」方法。
どちらが優れているということではなく、目的や場面によって使い分けが大切です。
でも、組織や地域など、複数人が関わる場面では、個人の意識に頼るより、「誰もが動きやすい構造をつくる」方が、変化は広がりやすいのです。
言い換えれば、「やる気がなくても動ける仕組み」が整っていれば、気づけば成果が出ている。あとから「やってよかったな」と内面も育つ。そんな順番での変化も、十分にありえるのです。
リーダーの仕事は、「人の心を変える」ことではありません。
「人が自然と動きたくなる構造を設計する」ことです。
そしてその構造は、意外とシンプルな仕組みから始められます。
まずは、あなたのチームや地域の中に、「動かざるをえない小さな仕組み」をひとつ、つくってみませんか?