「子どもたちと地域の未来をつくる」とは?——天理市福住地区の挑戦

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午後の部では、ESD実践者による事例紹介とパネルディスカッションが行われました。テーマは、「子どもたちと地域の未来をつくるとはどういうことか?」——いや、これはなかなか大胆な問いです。未来をつくると言われても、大抵の大人は自分の未来すら見通せないのが実情です。それを子どもと地域に託そうというのだから、どこか遠い話のように思えてしまいます。しかし、天理市福住地区の実践を目の当たりにすると、「未来」という言葉が単なる理想論ではなく、手を伸ばせば掴める現実であるように思えてきます。

1300人の集落が生み出すESDの「場」

福住地区にある1300人の集落が生み出すESDの「場」では、地域ぐるみで「子どもを中心に据えたネットワーク」を築き上げています。耕作放棄された茶園を活用した学習、生物部の生徒が発見した絶滅危惧Ⅱ類「ヤマトサンショウウオ」を題材にした総合学習など、地域の資源を存分に活かした教育が行われています。ESDが単なる「意識高い系の掛け声」にならず、地域の「生きた学び」へと昇華されている点が面白い。

登壇したのは、この取り組みを支えるキーパーソンたち。まず、福住小中学校堀川教諭のプレゼンが圧巻だった。文字なしのスライド写真だけを示しながら、よどみなく語るその語り口は、まるで観客を現場に引きずり込むかのよう。ユーモアを交えつつ、写真一枚一枚にストーリーをのせていく手腕は見事なもので「教育は体験である」と言わんばかりの臨場感に、聴衆も引き込まれていました。

次に、福住小中学校犬塚教諭の「福住学」の話。これはまた興味深い試みです。学校教育目標に「持続可能な社会の実現」を掲げ、小1から中3まで年間35時間を「福住学」に充てるという。地域の自然や文化遺産を題材にしながら、各教科の学びと結びつけるこの仕組みは、「総合学習」としては異例のスケール感を持つ。教育というものが、本来、知識の詰め込みではなく、「土地とともに生きる力」を育むものであったことを思い出させてくれます。

「地域とともに生きる」という覚悟

このフォーラムの中で、特に印象的だったのが、地域のキーパーソン、伊川氏の話だ。一社みんなとふるさと代表として、彼は「SATOYAMAオーガニックモデル」を推進している。単なる農業振興にとどまらず、地域の誇りを次世代に継承することを軸に、農業・教育・生物多様性保全・ゼロカーボンへと取り組みを広げています。 これがまた壮大な話なのですが、興味深いのは「実際に動いている」という点です。

例えば、耕作放棄地を活かした茶園の復活。農業は単なる生産活動ではなく、「地域の記憶」を受け継ぐ行為なのだといいます。そこに子どもたちが関わることで、土地とともに生きる感覚が芽生える。さらに、生物多様性保全、手仕事の創出、世代を超えた学びへと発展していく。伊川氏は「里山暮らしから生まれる生きたアート」と表現していたが、なるほど、これは単なる「地方創生」の枠を超えて、文化の再生にまで至る話なのかもしれない。

「未来をつくる」ための小さな一歩

ESDが大切なのは分かります。ですが、持続可能な未来とやらは、どこか「他人事」に聞こえがちです。しかし、福住地区の取り組みを知ると、それが「今、ここ」で始まっていることが実感できます。子どもたちは単なる受け手ではなく、地域の一員として「未来」をつくり始めているのです。

持続可能な社会とは、どこかの偉い人が計画するものではなく、こうした「小さな実践」の積み重ねなのだろう。過疎地域の未来は決して暗くない。むしろ、このような試みこそが、地方再生の本質ではないか。天理市福住地区の取り組みは、まさにその希望の糸口を示しています。

  • 2025 01.30
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